不安や心配は読者に伝わるだからこそ内面を磨きたい
押切もえさん
強く生きる女性になるファッション誌「AneCan」の専属モデル、押切もえさん。すらりと伸びた長い足。華奢(きゃしゃ)でありながらもメリハリのあるボディーライン。彼女のふわふわヘアは「押切巻き」、ファッションスタイルは「もえカジ」と称され、「私も押切もえになりたい!」と若い女性たちの憧れの的だ。
そんな彼女が今年4月からNHK「英語でしゃべらナイト」にレギュラー出演している。グラビアの印象とは一味異なる、素顔の彼女が好評だ。(取材・文/井上理江 写真/田中史彦)
――以前から「英語でしゃべらナイト」のファンだったそうですねファッションや音楽、カルチャーを通して楽しみながら英語が学べるし、世界で活躍する人たちが毎回登場して、すごく刺激的でいい番組だと思っていました。それに自分が出られるなんて本当に幸せ。家族が「すごいじゃない」と喜んでくれたのもうれしかったです。
もっと英語が話せれば
――英語には以前から興味はあったのですか?もちろん。3年前、ニューヨークへ行ったときに英語が全然通じなくて、すごく悔しい思いをしたんです。それで、帰国してすぐに英会話スクールに入ったのですが、日常生活の中で英語を使う機会がないこともあって、なかなか上達せず、伸び悩んでいたところでした。
――でも「もえさんは発音がいい」と視聴者からも評判ですがそう言っていただけるとうれしいです。でもまだまだです。「セレブ・インタビュー」というコーナーで、カリスマスタイリストのパトリシア・フィールドさんにお会いしたのですが、全然通じない単語があって、あのときは本当にショックでした。
――そういえば、この番組では、世界の第一線で活躍中の方々へインタビューされていますねまさに、このパトリシアさんへのインタビューが最初でした。テレビドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」のスタイリストとして注目を浴びた方で、私にとって憧れの女性の一人だっただけに、ものすごく緊張しましたね。質問もすべて自分で考えて紙に書き込んでいったのですが、なかなか伝わらないし、聞き取れないし、大変でした。それでもパトリシアさんは、私の目をしっかり見つめて一生懸命アドバイスしてくれようとした。その優しさが心に染みてうれしかった。気がついたら、カメラがまわっているのも忘れて必死に耳を傾けていましたね。
――ゲストとの会話も大いに刺激になっているわけですねより多くの人々と出会うことで今まで知らなかった世界が見えてくる。しかも英語が話せれば、世界中のいろんな人々とコミュニケーションがとれ、その人たちの経験を分けてもらえる。パトリシアさんへのインタビューでは自分の力のなさを痛感しましたが、同時に、世界中の人々と言葉の壁を感じることなく話せるようになりたい、と本気で思うようになりましたね。
――レギュラー陣も個性派ぞろい。影響を受けることも多いですか?パックン(パトリック・ハーランさん)が「コミュニケーションに何より大切なのはユーモア」と話してくれたんです。確かにそのとおり。で、八嶋智人さんがとてもユーモアあふれる方なので、ぜひそのセンスを学びとりたいです。それと最初は失敗が怖かったのですが、今は全然平気。このメンバーだと間違えても恥ずかしくないんです。現場も居心地よく楽しんでいます。
――失敗を恐れない度胸は英語上達のカギですねそうなんです。失敗して初めて知ることっていっぱいあると思うから。たとえば、「ワンピース」という単語を発したとき、「これは英語じゃない」とパックンが教えてくれた。でも、私が「ワンピース」と言わなければ、その事実をまだ知らずにいたわけで。英語だけでなく何でも同じ。自ら発することで気づけることっていっぱいあるし、それは意外に大事なことだったりする。
一度きりの人生だから
――目標は?いつか海外で活躍できるほどの英語力を身につけたいです。今、着物のプロデュースもしているのですが、日本の着物文化も世界に広めたいし、アンジェリーナ・ジョリーさんなど憧れの女優、モデルにも会いたい。モデルとして世界で羽ばたきたい。英語が話せるようになれば、自身の可能性をも広げていくことができる気がします。
――チャレンジ精神旺盛ですねそういうわけでもないです。チャレンジというと大げさで、ガツガツしているイメージがあるのですが、そうではなくもっと自然なかたちで、自分がやりたい、面白いと思ったことに素直な気持ちで取り組んでいきたい。「仕事」というと何となく「やらされている」という印象があって嫌なのですが、でも、モデルだけでなく、幅広い分野で経験を積んでいきたいとは思っています。
――それはなぜ?成長したいからでしょうね。人って、自身の人生を真に輝かせるために生まれてきたんだって最近思うんです。だから、仕事にこだわらずいろいろやってみたい。英語だけでなく他の語学も学びたいし、料理や茶道ももっと深く経験したい。一つのことをより深く知ると、それだけ自身の人生もまた豊かになっていく気がする。まだまだ未熟だからこそ、真に輝ける女性を目指していろんなことを吸収したい。一度きりの人生ですしね。いろんな人とも出会いたいです。
モデルは言葉で表現できない
――人から得ることも多い、ともちろん。誰かと出会って、この人ってこういう感じと思っても、長くつき合っていくうちにまた印象が変わったり、新たな面を発見したりします。人もまた奥が深いというか、つき合うほどに得るものも大きくなっていく。だからこそ、出会えた人や縁を私は大事にしたい。
――そういえば、「人生に影響を与えた本は?」の質問に、松下幸之助の「道をひらく」を挙げられました。意外でしたシンプルな言葉なのに、心に染み入る。元気にしてくれる。そんな一冊です。もともと本は大好きで、他にも数多く読んでいます。一番好きな作家は太宰治。中学の教科書で「走れメロス」を読んで信じる気持ちの強さみたいなものを教えてもらった。それからずっと愛読しています。
――話をうかがっていると「強く生きる」ことが、押切さんのこだわりのように感じられますそうですね。こだわりというより、理想という表現が近いかもしれません。モデルという仕事は、言葉で表現できない分、写真に自分のすべてがさらけ出てしまうんです。だからこそ、自身の内面を思いっきり磨いておかなければならない。いくら元気を装っていても、不安や心配があったりすると読者に伝わってしまうんです。それだけに、何があっても動じない強さと、確固たる「自分」というものを持ち合わせていないとやっていけない仕事だと思う。
――内面の強さから滲(にじ)み出る優しさ。それが本物の輝きにつながるそう信じているからこそ、凛(りん)と強く生きる女性に憧れるし、そこを目指して頑張ろうと思うんでしょうね。